乳がん患者へ治療の論理的な説明は必要か?
彼女のお母さんが乳がんの手術をしてもらったがんセンターは、スタッフの方々がとても親身になってくれる良心的な病院でした。
もうすぐお母さんの病理検査の結果が出て、その結果に合わせて、術後の全身への治療をどうするかを決めます。
あの病院ならば、お母さんの年齢的な条件や、お母さん自身の希望なども良く考えた上で、全身に対する治療方針を決めてくれることでしょう。
ただ、どんなに良心的な病院だったり、良心的な医師であったりしても、患者本人のお母さんへ、乳がん治療の説明を一から十まで完全に行うことは、時間的に無理です。
また、医師や看護師の立場からは言いにくい内容もあるはずです。
家族が医師から説明を聞いて、後からお母さんに説明をしなければならないこともあるでしょう。
その場合に、彼女を含めたお母さんの家族は(場合によっては僕が)、どういった説明を乳がん患者本人であるお母さんに説明をすべきなのでしょうか。
お母さんにしっかりと説明しなければならないと思うことは、治療法の選択肢と、その予想される結果の数値です。
しかし、そういったはっきりとした数値は、もしかすると本人は聞きたくないものかもしれません。
僕はこのブログで「乳がんの治療は現在では確率的にしかできないもの。だからその人の治療に対する希望が重要。」だと書かせてもらっています。
非常にキツい言い方になってしまいますが、乳がんの治療には、これだけやれば絶対に再発しない、という範囲はありません。
どれだけ多くの治療を行っても、再発率を下げる幅が大きくなるだけです。
場合によっては、その下げ幅のしっかりしたエビデンスのない治療法も受ける場合があります。
乳がんの治療法は、確率で評価されるのです。
このことは、治療方針を決める上で、患者本人が知っていなければならないことだと思います。
正面から考えることは辛いことかもしれませんが、乳がんの治療を受ける以上は、治療法を選択する基準が確率であることは変えられません。
乳がんの治療は、受ける治療法の効果(再発率の低下率)と副作用を天秤にかけ、その天秤に患者本人の希望を加えて、やるかやらないかを一つひとつの治療法について決める必要があります。
そこで必要になるのは、何もしない場合の再発率(無治療再発率)と、各治療法の効果(再発率の低下率)と、その治療の副作用や費用、通院やその他のデメリットです。
彼女のお母さんの病理検査の結果はまだ出ていないので、どのようなタイプや悪性度などの乳がんなのかは、今はまだまったく分かりません。
ですが、もしそれらが良くない結果だった場合に、お母さん本人が自分の治療方針を決めるべきだからといって、そのまま正確な数字でお母さんに伝えるべきなのかは、僕には分かりません。
彼女の乳がんの場合は、病理検査の結果が出た時には、手術の前に針生検によって、大まかな乳がんのタイプは分かっていました。
針生検の結果と病理検査の結果が多少変わることもあります。ですが、基本的には大きく変わることはないようです。
彼女の場合も、ki67の数値が多少違ったくらいで、針生検の結果と病理検査の結果は、大きく変わりませんでした。
こういった経緯により、彼女の術後の乳がん治療については、手術の前から彼女と少しずつ話し合っていました。
なので、彼女は術後の治療方針について、心理的な準備ができていたと思います。
(まあ、それでもホルモン療法の有無で、随分話し合いが難航しましたが・・)
しかし、お母さんの場合はどうなるのでしょうか。
お母さんは手術後の再発予防の全身治療を、基本的にほとんどやらないつもりでいるようです。
そして、病院側も、高齢のお母さんに抗がん剤治療や放射線治療などを省略することを提案しているようです。
ただ、乳がんである以上、やはりルミナール型である可能性は大きいわけで、ホルモン療法については、簡単にはやらないわけにはいかないと思います。
お母さんは肝臓に持病があり、抗エストロゲン剤やアロマターゼ阻害薬の肝臓への負担の程度によっては、医師もホルモン療法をしないことを支持するとは思います。
そうなった場合は、ホルモン療法をやれないことは仕方ないのないこととは言えますが、しかし、その場合に、ホルモン療法を省略した時の乳がんの再発率の数値を、お母さんにしっかりと説明するべきなのでしょうか。
肝臓への影響によって、はっきりと望んでもホルモン療法が出来ないような場合ならば、わざわざホルモン療法をした時の乳がんの再発率の低下率などをお母さんに説明する必要はないと思います。
しかし、肝臓への影響と、ホルモン療法による乳がんの再発率を抑えることの天秤で、お母さんが迷うことになったとしたら、どうなるのでしょうか。
もし僕がそのようなお母さんと同じ立場に立ったとしたら、肝臓の様子を見ながら、取りあえずはホルモン療法をやってみます。
そして、肝臓に影響が出ていることが分かった時に、ホルモン療法を中止するかどうかを検討します。
そのような治療方針をお母さんに提案してみるべきかどうか。難しいです。
それらの治療方針の期待できる治療効果は、確率的な予想しかできないのです。
ホルモン療法をやらなくても、乳がんは再発しないかもしれないですし、肝臓についても、悪い影響が出てから止めたのでは遅いかもしれないのです。
病理検査の結果次第では悩むこともなくなるかもしれませんが、ホルモン療法の有無で悩む可能性は、乳がん全体のルミナール型の割合を考えれば非常に高いはずです。
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