前回の「転移再発とタモキシフェンの関係」を少し補足します。

前回のブログを読んで下さった方の中には、突っ込みどころが多いと感じられた方もいるかもしれません。

僕が書く文章はどうしてもだらだらと長くなってしまう傾向がるので、前回のブログではあれ以上補足的なことを書く余裕がなくなってしまいました・・

な、なるべく簡潔に言いたいことをまとめるように努力していこうと思っています。すみません。線虫も途中で出てきます・・

 

まず、前回のブログではタモキシフェンはがん細胞を直接的には殺すことが出来ない、ということを前提に書きました。ですが、がん細胞を直接的には殺すことが出来なかったとしても、間接的にはがん細胞を殺すことはできるかもしれません。

タモキシフェンの効果の説明として、「がん細胞の栄養となるエストロゲンとの結合を阻害する」というような表現がされる場合があります。栄養が届かなくなるわけですから、それだけでがん細胞が消滅する可能性もありますね。

ただ、腫瘍を形成してしまったような乳がんが、タモキシフェンの効果だけで消滅することは稀なようです。

もしかすると、「微細な転移巣」ならば、微細の度合いによって、タモキシフェンだけで消滅するのかもしれません。微細な内にタモキシフェンなどのホルモン療法で増殖を止めれば、その人の免疫系などの攻撃でがん細胞が消滅する可能性もあるのかもしれません。

その辺りのことはまだ分かっていませんが、そういう効果も含めた数字が、タモキシフェンの公式に発表されている転移再発率を下げる数字なのでしょう。

 

もし、転移巣が小さい内にタモキシフェンを飲めばその転移巣が消えるということが分かれば、タモキシフェンの重要度が今よりもさらに上がるはずです。

逆に、転移巣の大きさに関わらず、タモキシフェンはがん細胞の増殖を抑えるだけで、がん細胞を殺すことはないと分かれば、「タモキシフェンを転移してから飲み始める」ということが現実的に選択肢としてあり得ることになるかもしれません。

今よりも小さい段階でがん細胞の腫瘍が発見できる技術が確立されれば、以上のようなことが分かるかもしれません。期待するところです。

 

この「微細ながんの腫瘍まで発見できる技術」ですが、少し前にニュースになっていました。九州大学から派生したベンチャー企業と日立製作所の共同研究で、患者の尿のにおいに線虫が反応するかしないかで、体内のがん細胞の有無を知ることができる、というものらしいです。

これはがんの腫瘍がどこにあるかは分からないのですが、どこにもないという判定はできるはずです。この検査の精度が高ければ、原理的に乳がんの手術後に微細転移があるかないかの判定ができるはずです。

そうすれば、乳がんの手術後に、抗がん剤治療もホルモン療法もやらなくてもいい患者の割合が増えるはずです。

100%の精度でなかったとしても、ある程度の高い精度で実現できれば、現在よりも、抗がん剤治療やホルモン療法をやった時の効果が高いと予想される患者と、効果が低いと予想される患者がはっきりするはずです。

「微細転移がある患者に対してだけ、抗がん剤治療やホルモン療法などの全身に対する治療をやる」という理想の状態に近くなるはずなのです。

 

また、手術の時点で微細転移がある=すでに転移している患者についても、それがはっきりと分かると大きなメリットがあります。現在の標準治療よりも、副作用も効果も高い強い治療を初期の段階から行えることになります。

現在の乳がんの標準治療では、すでに微細転移があるかないかが分からず、その微細転移がある可能性の大小で、予防的治療の強さを決めている状態です。

微細転移の有無が分かれば、確率的にではなく、100%か0%で、治療を行うか行わないか、はっきりできることになります。

がん細胞の転移が微細な内に抗がん剤治療やホルモン療法などを行うメリットは大きいはずです。逆に、転移が一切ないのに、抗がん剤治療やホルモン治療を行ってしまうデメリットは大きいはずです。

その二つの体の中のごくわずかな差を判別できると、乳がんの治療方法は大きく変わる可能性があります。

 

 

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彼女の乳がんはルミナールAで、手術後無治療ならば予想される転移再発率は10年間で20~25%と説明を受けました。

そして、タモキシフェンを5年間飲むことによって、それが40%~50%くらい減らせるということでした。

別の医師に聞いたところでも、大まかには同じでした。なので、この数字は信頼性が高いと思われます。

しかし、「タモキシフェンを転移してから飲み始める」でも書いたことなのですが、タモキシフェンには遠隔転移自体を抑える力はありません。タモキシフェンはがん細胞を直接的には殺すことが出来ないです。

40%~50%も転移再発率が減らせるというのはとても大きいことだと思います。なぜ、直接的にがん細胞を殺せないタモキシフェンが、乳がんに対して高い効果を発揮するのでしょうか。

 

まず、40%~50%転移再発率が減らせるといっても、それは10年間での話です。本来10年以内に転移再発するところが、10年以降で転移再発するだけの分が、この「40%~50%」に含まれていると思われます。

これはタモキシフェンの服用年数の推奨を5年間から10年間に延ばすかもしれないと言われていることからも、示唆されています。

つまり、5年や10年、そしてそれ以上ととても長い期間の話なので、実感することは難しいのかもしれませんが、タモキシフェンの効果は乳がんの進行を遅らせるだけだという事実があるのです。医者はあまりその辺りを説明しないですが・・

タモキシフェンはあくまで乳がんの進行を遅らせるだけで、転移を阻止することはできないし、乳がんのがん細胞を殺す力もないです。

これはとても嫌な事実です。ですが、その事実によって、乳がんの治療方針や患者の乳がんに対する見方が変わる可能性があります。なので、僕は重要な事実だと思います。

 

このことによって分かることで、まず重要だと思われることは、タモキシフェンは残念ながら転移再発してしまった場合の方が飲んでいた価値が高かった、と言えることです。

「彼女はすでに転移しているかもしれない」の回のブログでも書いたことですが、乳がんで手術した後に転移再発が出る場合は、手術した時点ですでに微細な転移巣があったことになります。手術をしてがん細胞は取ったわけですから、当たり前ですが、その後にそこから転移はしません。

そして、手術した時点からタモキシフェンを飲んでいたわけですから、すでにあった微細転移に対して、タモキシフェンの「乳がんの進行を遅らせる」という能力を100%発揮していたことになります。

タモキシフェンを飲んでいたにも関わらず転移再発してしまった場合は、タモキシフェンの飲んでいなかったら、間違いなくもっと早く乳がんの転移再発が発見され、進行が早まっていたことになります。

そして、これにさらに付け加えると、転移再発を発見した以降も、それまでタモキシフェンを飲んでいたことによって、タモキシフェンを飲んでいたかった時と比べて、乳がんの進行が遅くなる可能性があります。

タモキシフェンを5年間服用するのと、10年服用するのを比べると、10年服用した方が効果が強いのですが、その差が15年目まで以上出る、という原理からそう言えるのではないでしょうか。

転移再発が出るまでの期間を延ばし、そして転移再発が出てからの進行も遅らせる。タモキシフェンは再発転移を抑える薬として認識されているのですが、むしろ再発転移した場合にその進行をすでに抑えていた薬、なのです。ちょっと日本語がおかしいですが。

 

これに対して、タモキシフェンを5年間飲んで再発転移が出なかった(発見されなかった)場合を考えてみます。

タモキシフェンを飲んで再発転移が出なかった場合に、その意味を大きく三つに分けることができます。

一つ目は、手術した時点でも今でも、微細な転移は一切なく、まったく転移はなかった可能性になります。はっきり言えば、この場合、タモキシフェンは飲み損です。

ですが、微細な転移巣を発見する医療技術が今のところありません。今の技術では、転移している可能性があるだけで、タモキシフェンを飲むしかないです。

おそらく、将来的には、微細な転移巣を発見できる技術も開発されるでしょうから、「あなたは転移がないので、タモキシフェンや抗がん剤などの全身に対する治療はしなくていいです」という診断が出るようになるはずです。

 

タモキシフェンを飲んで再発転移が出なかった場合で考えらえる状態の二つ目は、その時点では転移が出ていないものの、残念ながらいずれ転移が出てきてしまう場合です。

これも、残念ではありますが、タモキシフェンの乳がんの進行を遅らせるという効果が確実に発揮されている状態だと言えます。タモキシフェンを飲んでいなかったら確実に乳がんの進行は早まっていたはずですし、転移を発見した以降も、タモキシフェンを飲んでいなかったことに比べれば、進行が遅くなっているはずです。

 

タモキシフェンを飲んで転移再発が出なかった場合で考えられる三つ目は、タモキシフェンを飲んだことによって、微細な転移巣の進行が最大限に遅くなり、転移が発見されるまでの年数が天寿を超えることです。

あまりに乳がんの進行がゆっくりになり、ほぼ進行しなくなったのと同じ状態です。がん細胞が体の中にあり続けるのですが、それが分からないために、根治したことと同じ状態になっています。

タモキシフェンで乳がんの転移再発率が大きく下げられる理由は、この状態にあるのではないかと推測することもできます。

 

タモキシフェンは抗がん剤のような直接がん細胞を殺すような薬とはまったく違う経路で、転移再発率を下げることができる薬だと言えます。

 

 

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(リンパ節転移と他臓器への転移は全く別ものです。リンパ節への転移は基本的に命の危険はありません。今回のブログの「転移」は全て他臓器への転移です。これは遠隔転移とも言い換えられます。)

まず、自分が恐ろしいことを言っていることは自覚しているつもりです。そして、このようなブログの題名にしていますが、それを自分の彼女に勧めるつもりはありません。申し訳ありません。

ただ、「(ルミナール型乳がんで)タモキシフェンを転移してから飲み始める」ことは、一理あるのです。道理の一つであることは事実です。

「彼女はすでに転移しているかもしれない」の回のブログで書いたように、乳がんの手術を行った後に転移再発が出る場合は、手術を行った時点ですでに微細転移している可能性が高いのです。

そして、今の医療技術だと、その判断ができない。

もしこれから医療技術が進んで、全身のごくわずかながん細胞も簡単な検査で見つけられるようになった場合は、初発乳がん発見時に転移が確認できる患者のみがタモキシフェンや抗がん剤のような全身治療を行うはずです。

今の技術だとすでに転移があるかどうかを判断できないので、可能性のみを考慮して、可能性が高い患者の全てにタモキシフェンや抗がん剤を使っています。

すでに微細転移している患者にしか有効ではない全身治療を、転移のない患者にまで行っているのです。手術時に転移のない患者は副作用のみを被ってしまいます。

このようなことは、通常の乳がんの標準治療を受ける場合には説明されません。ですが、おそらくこのことを正確に医師に聞けば、誠実な医師はその事実を認めてくれるはずです。

また、このような説明をすると、標準治療を否定しているように聞こえます。ですが、僕は標準治療自体を否定するつもりはありません。僕は標準治療を行う場合の説明方法に疑問を持っているだけです。説明方法によっては、患者の治療方針が変わってしまう可能性があるからです。

 

そして、現在の医療技術であえて転移再発を発見するまではタモキシフェンを飲まずに、転移再発を発見してからタモキシフェンを飲み始めるならば、転移のない患者がタモキシフェンの副作用のみを被ってしまうという事態が避けられる事実があるのです。

これは一つの選択肢のはずなのです。一つの選択肢としての可能性があります。臨床的な研究がされるべきだと思います。

もちろん、現実的にこれをするのは、あらゆる問題があります。あらゆる問題はありますが、その問題がクリアされた時には、選択肢の一つとして成立することは確かだと思います。

問題のクリアというか、その問題点が当てはまらない患者のみに、この選択肢を勧めればいいとなる場合が多いと思います。現実的な問題点と、問題が当てはまらない場合はどういう場合なのかを次回のブログで考えてみます。

 

ルミナール型の乳がんの場合は、転移再発を確認してからも(タモキシフェンを含む)ホルモン療法は非常に有効です。

そして、いずれ医療技術が進歩して、簡単な検査で全身のがん細胞を確認できるようになったのならば、ステージやサブタイプからの予想でホルモン療法や抗がん剤治療の全身療法をするしないを決めるのではなく、現在のステージⅠに相当する乳がんでも微細転移があれば全身療法をし、現在のステージⅢ相当であっても微細転移がなければ全身療法をしないことは確実です。(そもそもステージの概念がなくなりますが。)

 

また、もしルミナール型乳がんのステージⅢ以下で手術を行って、その後にホルモン療法をせずに転移再発が出てしまったならば、ホルモン療法をしなかったことを悔いるかもしれません。

ですが、ホルモン療法は基本的にはがん細胞を殺す力はないと言われています。がん細胞の餌であるエストロゲンを減らすことで、ルミナール型乳がんの進行を止めることがホルモン療法の目的です。

転移巣が小さい内にホルモン療法を行った場合にがん細胞を消滅させられるというエビデンスや、転移巣が小さい内のホルモン療法の方が効果が大きいというエビデンスがなければ、転移巣が大きくなってからのホルモン療法(=現在ならばステージ4を確認してからのホルモン療法)の選択肢は否定されないと思われます。

 

 

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