脅しに耐えて冷静に考える
前回のブログは、少し冷静さを失って書いてしまいました。
彼女の主治医の言いようがあまりに酷かったと思い出しながら書いてしまいました。
しかし、医者を批判しても何も生まれません。取りあえず、冷静に温存手術後の放射線照射のメリットとデメリットを考えてみます。
(取りあえず、頭を冷やすために今回は冷静に治療に関する内容だけを書こうと思いますが、あの医者についてはまた書くつもりです・・・)
温存手術後の放射線治療のメリットは、乳がんの局所再発率を下げることです。約三分の一に下げることができます。このことは強いエビデンスがあるので確定していることと考えられます。
はっきり言って、放射線治療のメリットはこれだけです。当たり前です。唯一にして最大のものです。いくら局所再発が余命(命の危険)とは関係ないと言っても、乳房にがんが何度もできることは耐えがたいはずです。なので、局所再発率を約三分の一にまで下げることができる術後の放射線治療は基本的に受けるべきです。
ではなぜ彼女と僕は術後の放射線治療を受けない選択肢も考えているのか?
それは、彼女の乳がんの温存手術が断端陰性になり、何もしなくても局所再発率が低いからです。(「断端」とは温存手術時に腫瘍を含めて乳房から取り出したものの周りのことです。これが陰性だというのは、取り出したものの周りにがん細胞がなかった=がん細胞を取り切れた可能性が高い、ということです。)
予想される局所再発率は、彼女の場合は9%です。そう主治医が言いました。
放射線治療で得られるメリットは局所再発率の低下です。局所再発率は患者の手術時にがん細胞の取り切れたかどうかで決まってきます。
つまり、放射線治療をすることで得られる価値は、患者の手術後のそれぞれの状態によって大きく違うのです。
温存手術では腫瘍径の大きさや乳房内でのがん細胞の広がり具合により、場合によってはがん細胞を取り残してしまう可能性があります。断端によって、取り残しは評価されます。
それらの材料から、術後の局所再発率が高いと予想される場合は、放射線治療を受ける価値が高くなります。
逆に、あまりいい言い方ではないのかもしれませんが、彼女のように手術の断端が陰性の場合は、放射線治療を受ける価値が相対的に低くなります。
そして、どのちらの場合でも、副作用は一定なのです。
乳がんに限らず、どんな病気であろうと、医療行為はメリットとデメリットをよく考えて受けるべきです。
特に乳がんの場合は、これから病状がどうなるかが何一つ確定していることはないのです。全ての乳がんに対する医療行為は現在までの臨床データからくる確率的な予想でしかないわけですから、なおさらメリットとデメリットのバランスで治療を選択すべきです。
過度の恐怖や過度の楽観で治療方針を決めるべきではないのです。
そもそも、前回のブログでも書きましたが、局所再発の可能性が低い場合に放射線治療を省略するという方針は、今彼女がかかっている病院の方なのです。僕が考え出したことではないです。
そして僕はこれをメリットとデメリットのバランスが取れていることだと思います。
それなのにその病院の医師が、ステージⅠでリンパ節転移なし、手術の断端陰性だった彼女に対して「放射線をかけないと、局所再発してリンパ節転移して全摘するかもしれないぞ!」と脅しをかけてきやがったのです!
・・・
す、すみません。今回は冷静に書こうと決めたのでした・・・
き、気を取り直して。
とにかく、同じ放射線治療でも、人によって期待できる効果が大きく違います。そして、副作用は全ての人で一定です。
術後の局所再発予防の副作用はそこまで大きいものではないですが、ないわけでもないです。
日本乳癌学会のガイドラインに放射線治療の副作用について載っています。(ここにリンクを貼ろうとしたのですが、転載禁止となっていました・・・興味のある人は検索してみて下さい。Q33です。ただし温存手術限定の話ではないです。)
それと、温存手術後に局所再発予防の放射線治療をした場合は、実際に局所再発してしまった場合に、二度目の手術は全摘の選択肢しかないです。
一度目の手術で放射線を照射しなかった場合は、二度目の温存手術を受けられる可能性が残ります。二度目の温存手術で放射線をかける選択肢も残ります。一度目に放射線をかけた場合は、二度放射線をかけることはできません。
これらは局所再発自体と天秤にかけるほど大きな事実ではありません。ですが、患者が放射線治療を受けなかった場合のメリットの一つにはなり得ます。
そして、患者が放射線治療を受けるコストは大きいです。医療費も大きいでしょうが、彼女の場合は病院に通うことが大変だと言っています。
週5回で5週間、25回病院に通うことになります。今の病院で放射線治療を受けるならば、彼女は仕事を一時休まなければならなくなります。
彼女の場合は放射線治療を受けようとするならば、夜間に放射線治療だけをやってもらえる病院を他に探すことが現実的だと思います。
以上のことをすべて考慮して、術後の放射線治療は受けるか受けないかを決めるべきです。
今一度、彼女の全ての条件を復習してから、受けるかどうかを話し合ってみます。
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ディスカッション
コメント一覧
こんにちは。
彼女さんの気持ちに寄り添って難しい選択を迫られてらっしゃるのだなあと思い読ませてもらってました。
温存で放射線治療をしない選択はほとんど聞いたことがありません。唯一が友人のお母様が79歳で寿命とQOLを考慮して医師から術後無治療を提案されたと聞きました。少ない例なのでしょうね。
読んでいて疑問に思ったことが一つあります。局所再発率 術後20年間の乳房温存術の局所再発率は、放射線療法を受けなかった場合には39%と乳腺外科の先生のHPにでていましたが、けっこう高いなという印象がわたしにはあります。彼氏さんがあげてらっしゃるステージでの再発率を術式の再発率より優先させるものなのでしょうか。
断端陰性はわたしは目に見えるがんがない状態と説明をうけました。ステージ0でなく浸潤ガンなら目にみえないがんはすでに散っていると考える必要があり、そのため術後治療が必要だと。ほんと術後治療がそれぞれの人生選択のようですね。
書き込みありがとうございます。
おっしゃる通り、温存手術での局所再発率は放射線照射をしないと、35%~40%くらいが全体の平均だったと思います。
今かかっているがん専門の大病院は、この全体の平均を細かく分類して、がんのステージや腫瘍径や断端などの評価によって、ハイリスク群とローリスク群に分けて
ローリスク群には放射線照射を省略するとうたっているのです。
乳がんの局所(乳房)治療の歴史は、その治療自体の省略の歴史です。全摘していたものを部分切除で済ませる可能性を見出し、
リンパ節を全て取っていたものを、術中迅速検査によって、残せるものは残せるようになったのです。
要するに、局所の治療と転移に対する全身の治療をはっきり分けて考えられるようになった歴史なのです。
そういう意味で、今の病院はとても先進的だと思ったからこそ、転院までしたのです。
そして、それを見事に裏切られた気持ちです・・・
せめて、放射線照射を省略する基準をしっかり説明してもらって、「あなたは基準を満たさないから、省略を勧めません」と合理的に説明して欲しかったです。
そういう病院があるのですね。
放射線治療の省略の基準の明確なものがまだないのでしょうね。あればどこの病院でもやっているでしょうから。医師の勘みたいなものでの判断もあるのかなと思いました。
わたしは40代ですが童顔で若作りなせいかいつもかなり若く見られます。最初ホルモン治療薬だけでなく注射も提案されたことを思い出しました。(実年齢を確認して注射はなくなりましたが)
彼女さんは以前抗がん剤治療まですすめられていると書かれてましたが、とても若い、女性らしい様子に女性ホルモンにさらされている状態と判断されて、危ないなと判断されたのかなと思いました。
それでも患者としては説明してほしいですね。
実はブログ本文にはまだ書いていませんが、前回の診察で、彼女もLH-RHアゴニスト製剤の皮下注射を勧められました。
その勧められ方が、相変わらず納得のいかないものでした。「抗がん剤をやらないのならば、代わりにLH-RHアゴニスト製剤をやりましょう」と。
そういう勧め方が標準治療においてありえるのかは分かりませんが、最初から選択肢として提示しない理由はまったくないと思われます。
やはり僕には単に過剰医療になっているだけとしか見えませんでした。
のんさんと比べるとどうなのかは分かりませんが、僕の彼女も歳の割には若く見える方だと思います。
彼女と同じステージ1、リンパ転移なし、断端陰性、温存手術でホルモン強陽性。同じ病院で手術しました。
罹患した年齢も同世代、ここまでは彼女さんと一緒です。でも私に提示された術後治療は放射線治療不要、抗ガン剤不要、ホルモン療法5年というものでした。現在は5年のホルモン療法を終え、無治療です。
放射線治療不要になるケースはあまり多くはないと聞きました。私は患者力が低く、主治医とのコミュニケーションは取れませんでしたし、あの病院を賞賛するつもりはまったくありませんが、貴方が声高におっしゃる過剰な治療をしているとは思いません。治療法提示後、局所再発が不安で放射線治療を希望しましたが、私の場合は過剰な治療になるから必要ないと断られました。術後治療の選択は色々難しいですね。
コメントありがとうございます。
シェリーさんに書いて頂いた情報は、僕と彼女にとってとても重要です。
患者の方から放射線治療を希望したのに、病院側(医師側)が拒否したのですね。
なんというか、それは彼女と僕の場合と逆ではありますが、患者の意思が尊重されていない点は同じで、良いことではないですね・・・
僕たちの場合とシェリーさんの場合の2つだけのサンプルで結論づけるのは早計かもしれませんが、考えられるのは2つ、医師によって方針がことなっている可能性と、5年間の間に病院の方針がある程度変わった可能性ですね。
まあ、どちらにせよ、患者の意思があまり反映されていないですね。
ただ、シェリーさんの話からすると、彼女の場合は、放射線をする方を勧められたとしても、した方がいい範囲のギリギリだったことが伺えます。
そうすると、やはり彼女が「局所再発、リンパ節転移、全摘」と繰り返し脅されたことが納得できないですね。
「うちの病院では放射線治療を省略する基準がありますが、あなたの場合はその基準にわずかに及びません」と説明を受ければ、また印象は変わったと思われます。
いずれにせよ、重要な情報を提供していただきありがとうございます。