違和感
彼女の地元に行って、お母さんの診察に付き合ってきました。
結論から書くと、お母さんは温存手術をすることになりそうです。
一応まだ手術方法を考えている最中で、一週間以内に決めて病院に連絡する予定になっています。
診察でMRIの結果を医師が見て、説明と共に温存手術が可能だと告げられました。
前回までのブログで書かせてもらったように、お母さんの乳房のしこりは2か所あります。
それでも、乳腺にそって紐状に切除することで、なんとか温存手術が可能らしいです。
医師を始めてとして、看護師の人も温存手術ができるという説明を患者の(お母さんの)喜ばしいこととして話している感じでした。
そして、娘であり乳がん患者としては先輩の彼女も、お母さんが温存手術が可能だという説明を聞いて喜んでいるようでした。彼女のお父さんも、あまり話が分かっていない様子ながらも安心をしている様子でした。
診察室の中が喜ばしい雰囲気になっている中、当人のお母さんは浮かない顔をしているように、僕には見えました。
この時、僕は頭の中でいろいろと考えていました。気になることが多かったです。
一番気になったのは、MRIの結果を見て温存手術が可能だとおっしゃっているこの先生に聞いたところ、手術をする先生は別だと言っていたことです。
MRIはこの日の午前中に撮影されていて、この診察の最中に結果がパソコンに転送されてきました。つまり、この医師が初めて見たことになります。
温存手術というのは、医師の腕に頼る部分が大きいです。
温存手術で局所再発を防ぐためには、実際のがんのしこりよりもマージンを取って大きく切除する必要があります。
ですが、大きく切除し過ぎると、今度は術後の乳房の形が悪くなってしまい、乳房をせっかく残す意味が低くなってしまいます。
乳がんの温存手術では「取り残しがない範囲でなるべく小さく切除する」という非常に繊細なことが要求されます。
僕は、実際に自分で手術をする医師の所見で、温存手術が可能かどうか判断すべきなんじゃないかなと、この時思っていました。
ただ、その時に僕はそう思ってはいましたが、それ程強い疑問としてそれを思っていたわけではないです。
「まあ、がんセンターの乳腺科の医師なのだから、経験が豊富で、こういう例をたくさん見ているのだろうな」と思い浮かべながら、なんとなくその場にいました。
温存手術について、良いことも多いですが、注意しなければいけないこともたくさんあります。
次々に医師と看護師から温存手術について説明されたのですが、それらを聞いていて、僕は少しずつお母さんが可哀そうな気持ちになってきました。
僕がそういう気持ちになったのは、おそらくお母さんがそう感じているのが僕に移ったんだと思います。
もしお母さんが事前に乳がんのことをいろいろ調べて知識を得ていて、そして温存手術を望んでいたのであれば、温存手術が可能だという結果を知った時に喜べたのかも知れません。
ですが、お母さんには、それはあまりないようでした。
乳がんの手術をしたい人なんていないと思います。自分が乳がんであるという事実を受け入れたくない患者だっていくらでもいるはずです。
まだ、自分の乳がんに対して完全に受け入れる体制ができてない彼女のお母さんにとって、手術の方法を自分で考えて決めることは辛いことなのかもしれません。
今更ですが、これが普通で当たり前なのだと感じました。自分の病気をしっかりと把握して、前向きかつ精力的に治療できる患者などは、ごく一部です。
多くの患者さんは、治療などはしたくないと心の奥では思っていても、しないとだめだから嫌々治療をするものでした。
がんのような大病ならば、なおさらそうなるのではないでしょうか。
僕の彼女の感性があまりに一般的な女性と違っているので、この当たり前のことを少し忘れていたような気がします。
「治療しないともっと悪くなってしまう」と言われた場合、多くの患者さんは悲しい気持ちになりますよね。
それは、頭では治療しなければならないと理解していても、気持ち的には治療などしたくないということがあって、葛藤が生まれているからです。
ですが、僕の彼女の場合は「治療しないと、もっと悪くなってしまう」と言われても、「それでも、やりたくない治療はやらない」「私は他の人と違うので、悪くならない」と本気で言う人です。
口で言ってるだけではなくて、本気でそう思っているのです。凄まじい胆力です。多分お父さんに似たんだと思います・・・
彼女のお母さんも彼女と同じように強気なところが多いのですが、本質的な部分では一般的な女性の感性に近い人のようです。
正直に言うと、お母さんが温存手術が可能だと聞いて彼女がとても喜んでいるのに、本人のお母さんが余り喜んでいない様子を見て、僕は彼女に対してもう少しお母さんの気持ちに寄り添ってあげられたらいいのになあ・・と思ってしまいました。
彼女自身が自分で温存手術を受けていて、良い結果を出せているので、これは仕方のないことなのかも知れませんけれど。
お母さんの乳がんの状態に関する具体的なことは、次回以降のこのブログで書かせてもらうことにします。
お母さんがお世話になっている某がんセンターの医師や看護師の様子や、センター全体の雰囲気などのも、いずれ詳しく書くことにします。とても良い感じでした。
あそこならば、お母さんの治療は安心できると思います。
しかし、診察室の中でお父さんの携帯電話が鳴りだした時にはドキっとしましたが、その電話をとって普通に話し出したお父さんにも驚かされました。
彼女の胆力は間違いなくお父さんから受け継いでいるようです。
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ディスカッション
コメント一覧
お母さん自身は全摘したいのなら
主治医にそう主張すれば
手術は全摘で行われると思います。
私の従姉妹も乳がんだったのですが
医師から部分切除を提案され
断って、全摘+再建を選びました。
あれから7年になりますが
いまも元気に暮らしています。
セカンドオピニオンに行くのも
いいかも知れませんね。
どちらの術式を選ぶにしても
お母さん自身が納得することが
今後の治療において
一番大切だと思います。
いつも書き込みありがとうございます。
彼女のお母さん自身は温存か全摘かはどちらでもよいように見えます。手術後の乳房の形が良くなる方がいい、という感じです。
温存手術の場合は、マージンをどのくらい取るかで、手術後の乳房の形は違ってきます。執刀医の腕も関係してくるはずです。
全摘には、局所再発がほとんどないというメリットがあります。
そういったことを、お母さんが決めかねている様子で、周りは温存を勧めている状態になっています。
もう少し考える時間があってもいいと僕は思うのですが、1週間以内に決めて病院に連絡することになっています。
温存にしろ全摘+再建にしろ、全てが終わってからでないと、本人が納得できる結果になるかは実際には分からないですよね。
特に温存はそうです。ただ、お母さんは元々あまり物事を悩まずに、決断が早い人なのです。
何か、いろいろやるせない気持ちになります。
通りすがりさんには、コメントでアドバイスをいただいたり、励ましていただいて、こころから感謝しております。
いつもありがとうございます。