僕がするべきことは
前回のブログ「温存か全摘+再建か」で、僕は客観的に、彼女のお母さんに対して僕がしてあげられることを書いたつもりでした。
ですが、どうも僕の文章が至らないせいか、「全摘手術よりも温存手術の方が優れている」というように読める文章になってしまったようです。
申し訳ありません。そんなつもりはないです。
いくつか話が混ざってしまいました。
少し整理してみます。
まず、乳がんの具体的な治療法の話以前に、お母さんが医師の説明をあまり理解できていないかもしれないことがあります。
お母さんの乳がんの診断以降、僕もお母さんと電話で話をしましたし(その時はあまり突っ込んだことを聞くことは控えたつもりです)、彼女も何度もお母さんと電話で話をしています。
どうやら、お母さんが分かっていないことは少なくないようです。
乳がんの治療では、患者は医師と信頼関係を築けないと、非常に苦しい状態になります。彼女はそれでとても苦労しました。
医師の話を患者が理解して、患者が知りたいことを医師が答えることは、信頼関係を築く上で一番の基本的なことになるはずです。
まずは、お母さんの次回の診察に付き合って、お母さんの乳がんの状態を正確に把握し、お母さん本人に分かりやすく噛み砕いて説明してあげる必要があると思います。
その役割が僕になるのか、娘である彼女になるのか、その他の人間になるのかは分かりませんが、誰かがそうする必要があると思います。
まず、しっかりと医師の話を確認して、それをお母さんの分かるように説明するべきです。そうしないと、本来は、お母さん本人の乳がんの手術に対する希望も決まらないはずです。
温存手術をするにしても、全摘手術をして再建をするにしても、乳がんの状態やその他の条件によって、それぞれの手術に対する適正が変わってくるはずです。
お母さんの場合は、そもそも温存手術が適応(可能)な状態なのかが、話を聞く限りでははっきりしないのです。
(おそらく、医師もその辺りのことをはっきりと言っていないのではないでしょうか。彼女の乳がんの手術の時にも経験しましたが、悪い結果が出た時に医師は責任を取らなくていいように説明をする傾向があります。温存手術自体は患者が希望すればやってくれることでしょう。ですが、そこでがん細胞を取り残す可能性については保証できない、という話なのではないでしょうか。つまり、「温存手術可能」とは言わずに「希望すれば温存手術もする」という説明をしたと推測します。)
乳がんの状態がはっきりせず、どんな選択肢があるのかも分からないまま、手術に及んでしまうなどあり得ないことです。
まず、医師の話をしっかり理解し、整理して、お母さんが分かるように説明する。
そしてその次に、お母さんの希望を聞くべきです。お母さんが理解していない状態の希望を聞いても、意味がないです。意味がないというか、それは非常に危険です。
間違った情報から来る思い込みで、自分の考えを固めてしまう可能性があります。
温存か全摘+再建か、どちらの術式をお母さんが希望するにしても、それぞれのデメリットの説明がなされるべきです。
ここまでのことは、非常に当たり前のことだと思います。
医師の話を説明する人が他にいなければ僕がやります。もしくは、彼女と一緒にやります。お母さんが望めば僕がやりますし、お母さんが望まなければ僕はやりません。
そこはこだわりませんが、そういう説明がされないまま、お母さんが手術をしてしまうことはないようにしたいと思っています。
話が長くなってしまいましたが、ここまでは温存か全摘+再建かの話以前の問題でした。本題に入ります。
僕は乳がんの温存手術と全摘手術を比べて、どちらが優れているか、などは考えたことはありません。
というか、条件によってどちらが適しているかが決まると思っているので、条件を考えずに温存と全摘の話をしても意味がないと思っています。
(条件なしに温存か全摘かの話をするのならば、逆にそれは「条件の話」になります。)
温存手術、全摘手術、全摘+再建手術、の3つの選択肢の話です。
それらのどの術式が、患者がどういう場合に最適なのか?という話になるのではないでしょうか。再建をしない全摘手術が最適な場合も多いはずです。
この場合の「条件」は患者本人の希望も大きいです。まったく同じ乳がんの状態でも、患者の希望によっては違う術式が選ばれてしかるべきです。
僕は彼女のお母さんの「条件」を考えた場合に、もし可能であるならば、全摘+再建手術よりも、温存手術の方が適しているのではないかと思っています。
一般的な話で、温存手術と全摘+再建を比べているわけではないです。あくまで彼女のお母さんの条件です。
僕が彼女のお母さんの手術では温存が適していると考えた理由は
〇彼女の温存手術の経過を全て見ているお母さんが、同じ治療を望んでいたから
〇彼女のお母さんは彼女と体系がある程度似ています。彼女の話では乳房も大きく形も似ている。彼女の温存手術後の乳房の形はまずまず良いので、同じようにできる可能性があること
〇高齢者は温存手術の適応が高いこと
大きく分けると、この3つが理由です。
ですが、これらの条件は「今のところ」です。2つある乳がんのしこりの場所と離れ加減が最重要なはずです。
最初に発見した大きい方のしこりの場所は、話を聞く限りでは温存手術に適している場所だと思います。
もう一つのしこりが、最初のしこりとどれだけ離れていて乳頭にどれだけ近いかで、温存手術をした後の乳房の形が変わってきます。
彼女のお母さんは美容的なことをかなり意識しているようです。そういったことを第一の基準にするのならば、乳がんのしこりの状態によって答えは意外とはっきりと出るのかもしれません。
ただ、いずれにせよ、二つあるしこりの小さい方のしこりが鍵になってきます。
そちらの方のしこりも、細胞診だけで乳がんの確定診断となったのか、まずはそこをしっかりと確認することが必要です。
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コメント一覧
はじめまして。私も乳がん患者です。52歳で、47歳の時に浸潤性乳がんステージ2と診断されました。術前化学療法、乳房切除(リンパ転移ありですが微小のため郭清なし)、放射線を経て、現在5年目で閉経前→閉経後内分泌療法中です。
彼氏の視点で書かれているのがめずらしいので時々覗きに来ています。
これから診断が確定し治療に向かう方が後悔しない選択ができるように私も心から願っています。
とっくに踏まえていらっしゃるかもしれませんが、付き添う時の参考になればと思い、記事の一部を引用してコメントさせて下さい。
>一般的な話で、温存手術と全摘+再建を比べているわけではないです。
術式が生存率に関わらないのは確かです。こういうと局所再発率は違うという反論が必ず出ます。しかし残念ながら乳がんのタイプによっては局所再発率ははっきり言ってどうでもいいのです。どう切ろうと治る人は治るし治らない人は治らない、ぶっちゃけるとそういうことです。局所再発を繰り返して亡くなる場合は最初に切除していても結果は同じです。広範囲に散らばっていることが初めからわかっている人は切除が適切ですが、その場合はそれほど悪性度が高くないことが多いので後で切除に切り替えても命に影響はないようです(もちろん例外もあります)。こういう情報は患者は怖くてもしっかりと理解すべきことです。局所再発が根治できるのはもともと初期治療でそれほど全身療法を必要としていない場合で、浸潤がんで増殖度が高い、her2陽性、異形度(グレード)が高い、リンパ転移がある、閉経前、というような条件の浸潤がんだと、たとえ女性ホルモン強陽性の乳がんであっても、すでに細胞レベルでの転移が早いうち(しこりが五ミリ以下のうちから)から始まっているので、どう切ろうが同じなのです。鍵は遠隔転移です。ただ、その転移は多くの場合診断時はあくまで「細胞レベル」で、いわゆるしこりを形成する「再発」とは違います。細胞レベルで転移しているガン細胞は他の臓器でそうやすやすと定着できません。ガン細胞にとっても生き残りはいばらのみちだそうです。だから転移先で定住してしこりになってしまう前に全身療法で叩く必要があります。だから、切り方を気にするよりももっと先を見て、全身療法の選択を医師としっかり相談する必要があります。でも私は温存できると言われてもしなかったほうです。当然生き残る気満々だったので、もっともっと先を見て全身麻酔の生涯回数を減らして「健康貯金」をするために再建なし切除をしました。乳がんを根治したいからという理由じゃないです。そういう考え方もあります。それに、浸潤径が大きかったので、既に化学療法を経ている癌が出てくると局所でも全身転移が早いので温存はやめるほうがよいと判断しました。それが「私には」最も正しい道だと思っています。
上記は私が独力で調べたことではなく主治医が全部話してくれたことです。大きな病院で、もう転勤してしまったけど、その先生も今の先生もほんとうにちゃんと情報をくれます。
ご存知のように、今はどこも温存が主流で温存を売りにしているところが多いです。無理に切除を避けようとする医師のほうが悪徳?かもしれません。だから、もし医師が切除をと言うなら、よほど切除が望ましいか、ある意味で患者の希望を聞いてくれる良心的な医師だとも考えられます。あと理系の忙しい人から情報を引き出すコツは、最初に「先生、今回は五つ聞きたいことがあります」と数を先に提示することです。そうするほうが乗り気で聞いてくれます。私は他の科にも数個かかっていますが例外なく成功します。
>僕が彼女のお母さんの手術では温存が適していると考えた理由は
(中略)
ですが、これらの条件は「今のところ」です。
最初に発見した大きい方のしこりの場所は、話を聞く限りでは温存手術に適している場所だと思います。
個数や場所よりも、やはり生検によるがん細胞のタイプによるところが大きいです。いくら親子でも彼女さんとがん「細胞のタイプ」まで同じである可能性はむしろ低いし、高齢者はホルモン強陽性なら進むのは遅いですが、閉経後の高齢者はむしろトリプルネガティブもわりといらっしゃいますから。今、リンパ転移が疑われないなら、むしろ局所再発がリンパに飛ぶ可能性も踏まえて切除を選択するのもありかなと思います。
再建は胸の大きな人はからだのバランスが悪くなると他の臓器にも影響が出るかもしれないので整容性の面だけでなく、今後の健康のためにもしたほうがいいかもしれませんね。
長々と失礼しました。いつも丁寧に返信されていますが適当にしてくださいね。私も書きたいなと思って書いただけなので押し付けるつもりはないです。
はじめまして。コメントしていただき、ありがとうございます。
Xさんが書いて下さった転移と局所再発の関係は、まさに僕が得た知識そのままです。
このブログでも「転移」というキーワードのタイトルの回では、ほぼそのような内容になっています。
局所の治療よりも全身治療の方が重要である(かつ混同しやすい)ということはとても重要で、小林麻央さんについて書かせてもらった回のブログの主題にしました。
ですので、Xさんが書いて下ったことには、同意させていただくところです。
細かいところでは、「今はどこも温存が主流で温存を売りにしているところが多い」という部分ですが、僕も彼女の乳がんの手術を経験する前はそういう情報を得ていました。
ですが、どうやらごく最近は少し違ってきたようです。2013年にインプラントでの再建が保険適用になった以降、全摘+再建の技術を売りにする大病院があるように僕には見えます。再建手術の実績を稼ぎ、それを売りにしてさらに患者を集めるのです。まあ、実績と技術はある程度は比例するとは思います。
彼女が手術をした病院も、インプラントの保険適用と前後して、乳腺関係の診療科を一新、統合し「乳腺センター」なる名称に変更しています。そして、その後に温存数と乳房切除の割合が逆転しています。
僕と彼女は、この病院で手術をすることが決まった当初は、まだ乳がんに関する知識が不足していました。温存と乳房切除手術の違いを正確に把握していませんでした。
そのような知識の乏しい患者に対して、5分程度の簡単な説明の後に「どちらの手術にしますか?」とその場で決断を迫られたことが、今ではトラウマです・・
結果的には、彼女には温存手術が非常に適応的だったと言えます。
話がそれましたが、Xさんの話の中に「悪徳」という単語が出てきましたので・・・
乳がんのタイプが重要だとおっしゃることにも同意します。彼女のお母さんの病院では、細胞診だけで手術に臨むようなので、その辺りの説明も僕が聞いてみるつもりです。
いろいろな情報を書き込んで下さってありがとうございました。